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オンデマンドPrEPって何?HIV予防方法と使い方を徹底解説
「HIV感染のリスクを減らしたい、でも毎日薬を飲むのは面倒…」と、悩みを抱えている方は少なくないでしょう。
従来のPrEP(暴露前予防内服)は効果的ですが、毎日の服用が必要なため、ライフスタイルによっては継続が難しい場合があります。そこで注目されているのが、必要なときだけ服用する「オンデマンドPrEP」です。
この記事では、オンデマンドPrEPの仕組みや効果、適切な使用方法、そして従来のPrEPとの違いを詳しく解説します。記事を読めば、あなたに最適なHIV予防法を選択するための知識が得られます。
オンデマンドPrEPを正しく理解し活用すれば、HIV感染リスクを減らしながら、より柔軟で負担の少ない予防が可能です。あなたの生活に合わせた効果的なHIV予防を始める準備をしましょう。
オンデマンドPrEPとはHIV感染の新たな予防法
オンデマンドPrEPは、HIV感染の予防対策として、採用されている新しい服用方法です。PrEPとは暴露前予防内服(Pre-exposure prophyraxis)の略称であり、従来のPrEP(暴露前予防内服と比較して、高い効果を発揮します。オンデマンドPrEPは、HIVの感染リスクが高い場面やタイミングに合わせて服用します。
また、オンデマンドPrEPは従来のPrEPと比べて、必要な時のみの服用で同等の予防効果を発揮します。そのため、薬の内服量を減らすことが可能です。
オンデマンドPrEPの基本的な仕組み
オンデマンドPrEPは、HIV感染リスクが高い人々を対象とした予防法です。この方法は、HIVウイルスの増殖を抑制する効果があるため、「HIV増殖抑制剤」とも呼ばれています。
作用の仕組みの流れは以下のとおりです。
1.感染リスクが高いときに服用する
2.HIVウイルスが体内に侵入しても増殖を抑制する
3.感染を未然に防止する
オンデマンドPrEPと従来のPrEPの違い
オンデマンドPrEPと従来のPrEPの主な違いは、服用のタイミングです。従来のPrEPは、毎日服用が必要で、継続的な予防効果があります。オンデマンドPrEPは、性交渉の前後などのリスクが高いときのみ服用します。必要に応じた予防効果を発揮できるのが特徴です。
オンデマンドPrEPの効果と安全性
オンデマンドPrEPの効果は、正しく使用すれば高い予防効果と安全性が確認されています。
・高い予防効果:従来のPrEPと同等の効果
・薬の総量削減:必要なときのみ服用するため
・安全性:使用される薬の安全性は確認済み
オンデマンドPrEPが適応されるケースと適さないケース
オンデマンドPrEPは、すべての人に適しているわけではありません。適応されるケースと適さないケースを理解することが重要です。
適応ケース
・HIV感染リスクが時々ある人(例:月に数回の性交渉がある場合)
適さないケース
・毎日リスクが高い人
・HIV感染者のパートナー
・女性
・膣性交を行う人
膣性交に関しては、薬剤が膣組織に到達するまでに時間がかかるため、オンデマンドPrEPでは効果が間に合わない可能性があります。
オンデマンドPrEPの服用方法と使用頻度
オンデマンドPrEPは、HIV感染リスクが高い状況に合わせて服用する予防薬です。その効果を最大限に発揮するためには、正確な服用方法と適切な使用頻度を理解することが重要です。
服用スケジュール
1.性行為の2〜24時間前:2錠服用
2.性行為後24時間:1錠服用
3.性行為後48時間:1錠服用
服用のポイント
・事前の準備:性行為の可能性がある場合は、薬を常に携帯しておくことをお勧めします。
・リマインダーの活用:スマートフォンのアラーム機能などを使用して、服用時間を忘れないようにしましょう。
・継続的な服用:性行為が複数回ある場合は、24時間ごとに1錠を服用し続けます。最後の性行為から48時間後まで服用を続けることが重要です。
注意点
・オンデマンドPrEPは、HIV感染予防には効果的ですが、他の性感染症や妊娠を防ぐものではありません。
・効果を最大限に発揮するためには、医師の指示通りに正確に服用することが不可欠です。
オンデマンドPrEPは、HIV感染予防に特化した方法ですが、総合的な性の健康管理においては、他の要素も考慮する必要があります。
オンデマンドPrEPにおける避妊の必要性
オンデマンドPrEPには避妊効果はありません。避妊を望む場合は、以下の方法を併用することが重要です。
・コンドーム
・経口避妊薬
・IUD(子宮内避妊具)
オンデマンドPrEPにおけるHIV以外の性感染症予防
オンデマンドPrEPはHIV以外の性感染症を予防する効果はありません。他の性感染症予防のためには以下の方法が重要です。
・コンドームの使用:多くの性感染症の予防に効果的です。
・定期的な検査:早期発見・早期治療につながります。
・ワクチン接種:HPV(ヒトパピローマウイルス)や B型肝炎などのワクチンが利用可能です。
オンデマンドPrEP、コンドーム、その他の避妊方法を適切に組み合わせることで、HIV感染、他の性感染症、そして望まない妊娠のリスクを減らすことができます。個人の状況や希望に応じて、最適な組み合わせを医療専門家と相談しながら決定することが重要です。
オンデマンドPrEPの副作用とリスク
オンデマンドPrEPは、HIV感染予防に効果的な方法ですが、他の医薬品と同様に副作用やリスクがあります。これらを理解し、適切に対処することが重要です。
副作用と注意点
オンデマンドPrEPの主な副作用には以下のようなものがあります。
消化器系の症状
・吐き気
・軽度の胃部不快感
・下痢
これらの症状は、薬剤が胃に与える刺激によって引き起こされることがあります。多くの場合、時間とともに軽減しますが、症状が持続する場合は医師に相談してください。
腎機能への影響
稀ですが、腎臓の機能低下が報告されています。IPERGAY試験では、オンデマンドPrEP使用者の0.1%未満で軽度の腎機能低下が観察されました。このリスクを管理するため、以下の対策が推奨されます。
・服用開始前の腎機能検査
・定期的な血液検査による腎機能のモニタリング(通常3〜6か月ごと)
骨密度への影響
長期使用による骨密度の軽度低下が報告されています。ただし、オンデマンドPrEPでは使用頻度が低いため、このリスクは最小限に抑えられると考えられています。
オンデマンドPrEPは、HIV感染の予防に効果的な方法ですが、他の薬と同様に副作用やリスクがあることを理解しておきましょう。
HIV感染リスクの軽減度
オンデマンドPrEPは、正しく使用した場合、HIV感染リスクを減少させます。IPERGAY試験では、86%のリスク減少が報告されています。さらに、その後の実際の使用データでは、97%以上の有効性が示されています。
しかし、100%の予防効果があるわけではありません。また、HIV以外の性感染症には効果がないことも理解しておきましょう。最大の効果を得るには、医師の指示通りに正確に服用することが重要です。
定期的な検査の必要性
オンデマンドPrEP使用中も、定期的な検査が不可欠です。検査には、主に以下の種類があります。
HIV検査:PrEP使用中のHIV感染を早期に発見するため3か月ごとに実施
性感染症検査:オンデマンドPrEPはHIV以外の性感染症を予防しないため、3〜6か月ごとに実施
腎機能検査:腎機能への影響をモニタリングするために3〜6か月ごとに実施
骨密度検査:長期使用者(2年以上に推奨)
これらの定期検査は、健康状態の把握、早期発見、早期治療につながる重要な手段です。
オンデマンドPrEPの処方箋の取得方法
オンデマンドPrEPは、HIV感染リスクの高い人々が感染予防のために服用する薬剤です。処方箋を取得するためには、以下の手順を踏む必要があります。
1.適切な医療機関の選択
オンデマンドPrEPを取り扱う医療機関を見つけることが重要です。以下の方法で探すことができます。
・インターネット検索:「オンデマンドPrEP」「HIV予防」などのキーワードで検索
・地域の保健所への問い合わせ
・HIV/AIDS関連の支援団体への相談
2.医療機関での診察
選択した医療機関を受診し、以下のような詳細な問診を受けます。
・HIV感染リスクの評価:性行動パターン、パートナーの数など
・性生活に関する質問:性交渉の頻度、コンドーム使用状況など
・過去の性感染症罹患歴
・全般的な健康状態
3.検査の実施
医師の判断により、以下の検査が行われます。
・HIV抗体検査:現在のHIV感染状況の確認
・肝機能検査:薬剤の副作用リスク評価
・腎機能検査:薬剤の代謝に関する評価
4.処方箋の発行
医師がオンデマンドPrEPの必要性を認めた場合、処方箋が発行されます。この処方箋を薬局に持参することで、薬剤を購入できます。
オンデマンドPrEPに関する最新の情報
ここでは、オンデマンドPrEPに関する最新の研究結果や、信頼できる情報源の見つけ方を紹介します。
最新の研究結果
オンデマンドPrEPは、従来の毎日服用型PrEPと比較して、より柔軟な使用が可能な予防法です。最近の研究結果から、その有効性と使用パターンについて新たな知見が得られています。
IPERGAY試験(フランス・カナダ)
・対象:HIV陰性のMSM(Men who have Sex with Men)
・結果:オンデマンドPrEPの有効性が86%と報告
・追加知見:服薬アドヒアランスが高いほど、効果が高まることが示唆
AMPrEP研究(オランダ)
・対象:PrEP使用者(毎日服用型)とオンデマンド型
・結果:オンデマンドPrEP使用者の約70%が1年後も継続使用
・追加知見:使用パターンの柔軟性が継続使用率の向上に寄与
ケープタウン研究(南アフリカ)
ケープタウン研究では、オンデマンドPrEPを含む包括的なHIV予防プログラムの効果を検証しました。主な研究内容は以下のとおりです。
・対象:若年カップル
・アプローチ:オンデマンドPrEPの提供に加え、地域全体でのHIV予防意識向上を目指す
・結果:プログラム参加者のHIV感染率が非参加者と比較して低下
・追加知見:薬剤の提供だけでなく、包括的なアプローチが効果的
:性教育やHIV検査の促進が予防行動の変化につながる
これらの研究結果は、オンデマンドPrEPが効果的なHIV予防法であることを示すとともに、その使用を支援する包括的なアプローチの重要性を強調しています。
信頼性のある情報源の探し方
オンデマンドPrEPに関する正確で最新の情報を得るためには、信頼性の高い情報源を利用することが重要です。以下に、推奨される情報源と特徴を示します。
医療機関のWebサイト
特徴
・専門医による監修
・臨床経験にもとづく実践的な情報
・地域の医療サービスに関する具体的な情報
例:国立国際医療研究センター病院のHIV/AIDS情報ページ
公的機関のWebサイト
特徴
・最新の研究結果や統計データにもとづく情報
・国の政策や指針に関する情報
・多言語対応の場合あり
例
・厚生労働省:HIV/AIDSに関する総合的な情報
・国立感染症研究所:疫学データや研究報告
学会や研究機関のWebサイト
特徴
・最新の研究論文や専門家の見解
・詳細な科学的情報
・国際的な動向に関する情報
例
・日本エイズ学会:国内外の最新研究情報
・UNAIDS(国連合同エイズ計画):世界的なHIV/AIDS対策の動向
まとめ
オンデマンドPrEPは、HIV感染リスクの高い人々のための効果的な予防法です。オンデマンドPrEPの主なポイントは以下のとおりです。
• 性行為の2〜24時間前に2錠、その後24時間と48時間後に各1錠服用
• HIV感染リスクを約90%減少
• 従来のPrEPより服用量が少なく、柔軟な使用が可能
オンデマンドPrEPはHIVに対して高い効果を発揮しますが、副作用やリスクも存在します。また、HIV以外の性感染症には予防効果はなく、避妊効果があるわけでもありません。容量用法を守り、自分に合ったHIV予防方法を選択し、使用する際には医師との相談のうえで行いましょう。
参考文献
Wechsberg WM, Carney T, Browne FA, van der Drift IM, Kline TL, Nyblade LL, Ndirangu J, Orrell C, Bonner CP and Caron E. Multilevel strategies to end HIV for young couples in Cape Town:Study protocol for a cluster randomized trial.. PloS one 19, no. 6 (2024):e0305056.
記事監修者
天野方一(イーヘルスクリニック新宿院 院長)
埼玉医科大学卒業後、都内の大学附属病院で研修を修了。東京慈恵会医科大学附属病院、足利赤十字病院、神奈川県立汐見台病院などに勤務、研鑽を積む。2016年より帝京大学大学院公衆衛生学研究科に入学し、2018年9月よりハーバード大学公衆衛生大学院(Harvard T.H. Chan School of Public Health)に留学。予防医療に特化したメディカルクリニックで勤務後、2022年4月東京都新宿区に「イーヘルスクリニック新宿院」を開院。複数企業の嘱託産業医としても勤務中。 日本腎臓学会専門医・指導医、抗加齢医学会専門医、日本医師会認定産業医、公衆衛生学修士、博士(公衆衛生学)の資格を有する。